トレーニングにおいては、腹圧を高めるようにすべきとされることがあります。
腹圧を高めることで、トレーニングによる腰痛を予防することができたり、呼吸法と関連してシェイプアップ法として紹介される場合もあります。
ところで、腹圧というと、「腹」圧なので、腹圧を高めるには腹筋に力を入れればいいと思っていませんか?
実は、腹圧は、良い姿勢であれば、つまり骨の積み木が適切に積まれていれば、必要な分だけ勝手に入るようにできているのです(もちろん、個人差による限界はあります)。
結論だけ述べるとそうなのですが、今回は、この「腹圧」についてより詳しくお伝えしようと思います。
そもそも、腹圧というものは、腹腔内圧のことをいい、腹腔内部つまりお腹の中の内臓が収まる空間内部の圧力のことをいいます。
具体的には、「横隔膜」「骨盤底筋群」「多裂筋」「腹筋群」で構成されていて、横隔膜が腹腔の天井、骨盤底筋群が腹腔の底、多裂筋が腹腔の後面の一部、腹筋群が腹腔の前面、側面および後面の一部を構成しています。
面といっても人の身体は丸みを帯びているので、ほぼ円柱にみたいな四角柱をイメージしてもらえればいいかと思います。
四角柱のイメージを持っていて欲しいのは、腹圧の「圧」の方と関連してきます。
圧力とは、物体の表面あるいは内部の任意の「面」に向かい垂直に押す力のことをいいます。
圧力の定義として「面」を使っているので、面として捉えやすい四角柱の方がイメージしやすいと思ったからです。
では、腹圧が高まったというのはどういう状況かというと、腹腔を構成するそれぞれの面が、腹腔内部に向かって押される力が発生している状況です。
もっと大きな目線から見れば、腹腔内部の体積を小さくしようとする力が働いている状況、腹腔内部の空間が小さくなろうとしている状況が、腹圧が高まる状況です。
では、それぞれの面において、どうすれば腹腔内部の空間を小さくすることができるでしょうか。
横隔膜は、胴体を胸と腹部で二分するように文字通り膜のように付着しています。
息を吸う時に横隔膜を収縮させて引き下げ、胸郭(腹腔の上部にある胸部の空間)を広げることで、空気が肺に入ってきます。
スポイトで、袋部分を摘んだ状態で水に近づけ、指を離すと水が袋部分に入ってくることをイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。
肺自体には筋肉がないので、肺を動かす役割の大部分を横隔膜が担っているのです。
一方、息を吐くときには、横隔膜を緩め、腹部の筋肉を収縮させることによって、逃げ道を失った空気は横隔膜は上部に押し広げ、結果的に胸郭は狭くなり、空気が肺から吐き出されます。
これだけ見ると気づかれた人もいるかもしれませんが、呼吸だけでは、実は腹圧の強さに大きな変化は起こせていないのです。
腹腔の形が変化しているだけなのです。
では、骨盤底筋群はどうでしょうか?
骨盤底筋群は、名前の通り、骨盤の底を覆うように付着しています。
骨盤底筋群を意図的に収縮させるのは難しいですが、1番わかりやすいのは、お尻の穴を締めることでしょう。
しかし、骨盤底筋群は支えることに特化している筋肉群で動きの幅は小さく、腹圧を弱くしないようにすることはできても、腹圧を高めるということに関しては力不足と思われます。
では、多裂筋はどうでしょうか?
多裂筋は、背骨付近に縦方向に付着しています。
腹腔のほんのわずかな面にしか占めていないので、この筋肉単体で腹圧を高めるのは難しいです。
最後は腹筋群ですね。
腹筋は、前述の通り、腹腔の前面、側面、後面の一部と、腹腔の広い範囲を占めており、腹圧を高める鍵になる可能性は高そうです。
だからこそ、腹圧を高めるときに、腹筋が注目されるのは当然だといえます。
腹筋群には、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋があります。
それぞれ、筋繊維の方向は、腹直筋は縦、外腹斜筋と内腹斜筋はそれぞれ方向は違いますが、縦に近い斜め、そして腹横筋が横になります。
腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋は、縦方向に繊維が伸びているので、腹部の動きを司っていて、それぞれ多少の違いはあれど、共通して収縮により腹部を丸めるという作用を起こします。
単純に腹筋に力を込めると腹部が硬くなって、圧が高まっているようにも感じます。
ただ、腰が丸まるのも同時にわかると思います。
腰が丸まるなら、これらの腹筋はそれぞれの作用を果たし、腹部を丸めるのに使われているだけです。
これでも腹圧は高まりません。
腹圧を高めるために重要なのは、腹筋群の中でも残った腹横筋です。
腹横筋は、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の内部に位置し、腹腔の前面、側面、後面の一部を覆い、横方向の繊維を持っています。
この筋肉が収縮すると、コルセットで腹部を締め付けるように、腹部を絞り、腹圧を高めるために働きます。
では、腹横筋を収縮させるためにはどうすればいいかというと、お腹を凹ませることです。
では、実際にやってみてください。
お腹を凹ませるのって難しくありませんか?
また、お腹を凹ませるときに、息を吐いていませんか?
そもそも、お腹を凹ませるためにどうしたらいいかわからないという人がたまにいます。
腹横筋は動くために使われる筋肉ではなく、呼吸するために横隔膜などとともに自動で動くようにシステム化されています。
なので、意図的にどのように収縮させるかわからなかったり、お腹を凹ませることで、腹圧を横隔膜のほうへ逃がし、胸郭を狭め息を吐くことになるのです。
腹圧を意図的に高めようと考えるなら、息を吸いながら(あるいは止めながら)お腹を凹ませるということが必要になってきます。
実際にやってみてください。
やってみるとわかるのですが、本来上部へ逃げるべき腹圧が、息を吸うことで横隔膜が収縮し、逃げられなくなっているので、腹腔全体を押し広げる力になります。
その押し広げる力に耐えられなければ、腰を丸めたりして腹圧を逃がそうと無意識にしてしまいます。
腰が丸まるのを嫌い、そのまま腹圧を高め続けたら、腹部が丸まらないようにするために腰に力が入るので、腰が痛く感じることがあります。
腹圧を意図的に高めるのは非常に難しいのです。
そんなことをトレーニングを行なっている最中にできるでしょうか?
風船をイメージしてもらうといいのですが、風船の一部を指で押して凹ませようとすると、押しているところ以外に空気が逃げようとしてパンパンに張ってきます。
風船が変形するのです。
これを腹腔に置き換えるなら、お腹を凹ますことによって、腰が丸まった状態です。
もし、これがトレーニングの最中に起これば、姿勢が崩れ、大事故につながる危険性があります。
なので、圧を意図的に高めるなら、全面から中心に向かって逃げ道の無いように押し続けるしかありません。
少しでも逃げ道ができれば、その部分が変形してしまいます。
そんな針に糸を通すような、しかも、少し間違えば爆弾を爆発させてしまうような繊細で危険なコントロールをトレーニングの間行い続けることができるでしょうか?
できるのであれば、それはすごいことです。
ただ、僕にはとてもできません。
腹圧は、上記のようなコントロールができないのであれば、意図的に高めるべきではないと考えます。
そもそも、腹圧は、呼吸の話とともにしましたが、自動でコントロールされるものだと考えられます。
また、タイヤに適正な空気圧があるように、腹圧にも適正値があるのではないかと思います。
そして、必要があれば、例えば、スクワットで重いウェイトを担いだときのように、腹圧を自動で高めるようにシステムされているのです。
その自動システムを働かせるために、骨の積み木を積み上げた良い姿勢である必要があるのです。
良い姿勢の状態というのは、骨の積み木を支えるための筋肉が全面的にバランス良く働きやすい状態なのです。

積み木が崩れた、つまり姿勢が崩れた状態だと、骨の積み木を支えるための筋肉がまず骨を元の位置に戻すために使われるので、全面的にバランス良く働くというのが困難になります。

以上から、冒頭のほうで述べたように、腹圧は、良い姿勢であれば、必要な分だけ勝手に高まるようにできているという結論になるのです。
なので、腹圧を高めたければ、良い姿勢について知りましょう。
姿勢については以下の記事がわかりやすいかと思います。